栄養関連情報

2018.05.07更新

「栄養」に歯科が取り組む意義と在宅訪問管理栄養士との連携

こばやし歯科クリニック

http://www.k-dc.net/

 

副院長

齋藤貴之先生(右) 

管理栄養士

大西由夏先生(左)

 

 

 

 

 

 

 

①摂食嚥下障害と栄養管理の課題(副院長 齋藤 貴之先生)

 摂食嚥下障害の主な原因疾患に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害があり、口腔周囲筋の運動障害などの後遺症を伴います。

 嚥下障害は、脳血管障害発症直後の急性期に多く見られますが、そのほとんどは改善し、慢性期まで残るのは数%と言われています。しかしながら、低栄養や筋力低下が伴うと状況は一変します。私が診療している摂食嚥下障害患者でも、脳梗塞や脳出血を発症後、何年もそのまま普通に生活をしていた方がほとんどです。それが、日々の生活の中で低栄養状態になったり、筋力低下が進行して、食形態のミスマッチング(嚥下状態が低下しているにも関わらず以前と同じ食事を続けること)を起こしたりして、徐々に食事中むせるようになり、時には肺炎を発症し、結果的に食事量の低下に繋がってしまいます。

 この時に適切な栄養指導や摂食嚥下リハビリテーションが行われず、食形態のミスマッチングが是正されない状態が続くと誤嚥が常態化し、肺炎を発症するリスクが高まります。そして肺炎を発症してしまうとさらなる全身状態の低下(低栄養・筋力低下等)を招き、さらに嚥下障害が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。

図1.嚥下・栄養状態の悪循環  (齋藤先生作図)

②栄養摂取に歯科が取り組む意義(副院長 齋藤 貴之先生)

 

 こういった悪循環に陥る前に摂食嚥下障害の悪化を食い止める事は出来ないのでしょうか。私は歯科医師がとても重要な役割を担っていると考えています。

 最近では誤嚥性肺炎が頻繁に取り上げられ、『肺炎予防=口腔ケア』がかなり定着してきたように思います。

 口腔ケアを行って口腔内を清潔に保ち、肺炎リスクを下げていく事はもちろん重要です。今後は口腔ケアに加えて、咀嚼・嚥下の検査、栄養状態の観察をし、適切な歯科治療や摂食嚥下リハビリテーションが実施されるようになれば良いと思っています。さらにはしっかりと食形態のミスマッチングを是正し、低栄養予備群の患者を管理栄養士に繋いで適切な栄養指導を行う事が大切です。そうすれば、嚥下障害の発症を抑えるだけではなく、要介護状態の悪化そのものを予防する事が出来るのではないでしょうか。

 ここで、嚥下リハビリによって食形態が改善した事例を紹介します。脳梗塞の後遺症で嚥下障害があり、当初は口から全く食べられませんでした。ゼリーも難しい状態でしたので、まずは間接訓練から始めました。そして、1か月後には嚥下訓練を始め、その2か月後には並行して徐々に食形態を上げるといった段階を踏んでいきました。嚥下の状態と栄養状態は密接に関わってくるため、この間の栄養管理も大変重要になってきます。この患者さんの場合は、1日3回、医薬品経腸栄養剤ラコールの胃瘻投与を行っておりました。ちなみに、食べ物の食形態を上げていく過程で、ラコールも液体から半固形に変えました。注入時間も短くなり介護者の負担が軽減されるだけでなく、消化機能のリハビリにも良いのではとの理由からです。嚥下リハビリを開始した当初は経口摂取が完全に不可だった状態でしたが、訓練開始から4か月ほど経った頃には、1食は、少し柔らかめの普通の食事が出来るまでに改善しました。

③管理栄養士との連携(副院長 齋藤 貴之先生)

 まずは管理栄養士という職種と接点を持つ事が大事です。在宅で活躍する管理栄養士はまだまだ少ないので、地域によっては連携して診療を行う事は難しいかもしれません。

 第一歩としては私たち歯科医師自身が栄養に関して歯科的な観点から診断する事が大事だと思います。具体的には身体的状況の把握(身長、体重、BMI)と経時的な体重変化、食事状況の把握(食形態のミスマッチングの有無や喫食率)などです。これらを歯科的な観点から観察する事が重要です。例えば、装着した義歯の疼痛の有無だけではなく、ミールラウンドに行き、咀嚼の状態や食塊の輸送状態までを観察し、栄養摂取を行う上で口腔内環境が悪影響を及ぼしていないかをしっかり診察していく事が大事だと思っています。

 実際に食事が摂れない、むせてしまうといった訴えで訪問歯科診療に伺うと、不適合な義歯が原因(痛くて噛めないから食べない、顎がやせてしまい義歯が合わない等)である事も多々見受けられます。一方で嚥下検査の結果、咀嚼など歯科的な要因に問題がないにも関わらず、嚥下障害を生じている場合は(食形態のミスマッチングを是正するために摂取する食形態を下げる場合)いよいよ栄養士の出番です。一般的に食形態を下げる(例 普通食⇒ ペースト食)と摂取カロリーが下がり、低栄養のリスクが高まるからです。

 不足している栄養をどういった形でどのように補っていくか?食事は栄養摂取と同時に毎日の楽しみでもあるため、個人の嗜好や介護者の負担(食事の準備など)とも大きく関わってきます。調理の方法や介護者の不安の解消などきめ細やかな部分にまで寄り添いながら栄養状態を改善し、嚥下障害から回復させていくためには管理栄養士との連携は欠かせません。特に在宅では嚥下検査の結果、適切な食形態や食事方法を診断しても、それが適切に行われないケースも多くみられます。管理栄養士と連携する事で買い物から調理までの食事準備の問題に対してもアプローチする事ができます。

表1.診断項目例  (齋藤先生作表)

④こばやし歯科での訪問栄養士の仕事内容および多職種連携(管理栄養士 大西 由夏先生)

 当院では、歯科医師から栄養指導や相談の依頼を受けると、管理栄養士も歯科医師や歯科衛生士と一緒に同行して施設や在宅に行き、身体的状態、栄養評価、食生活のアセスメント、患者さんの普段の食事や嗜好、生活状況、ADL、調理担当、食事回数等の確認を行なっています。家族やケアマネジャー、訪問看護師等からの依頼で嚥下評価を行い、その際に食形態のミスマッチング等があった場合に、歯科医師から管理栄養士に依頼がくるといった流れです。

 介入した例を挙げさせていただきます。義歯調整と口腔ケアを主訴として訪問歯科診療を行っていた患者さんの食事量が減ってきたため、現状の食形態が適正なのか嚥下評価の依頼があり歯科医師による嚥下評価の際に同行しました。その結果、家族が用意する食事は、食形態的には問題がありませんでした。ただ、患者さんの希望する一口量やメニューにおいてミスマッチングが生じていたため、家族に、患者さんが食べやすい一口量を示すとともに介護負担も軽減できるよう調理の工夫をアドバイスしました。食事を用意する家族の負担も考慮しつつ、管理栄養士が細かくチェックし指導することで、患者さんの希望に寄り添いながら、食事量アップの改善に繋がった例です。また、液体のラコールを胃瘻から経管投与されている患者さんの家族からは、投与時間がかかると相談を受けました。ラコールは液体だけではなく半固形のものがあるので、主治医に相談するようにアドバイスを行いました。在宅で活躍する管理栄養士が少ないため、食事(栄養)について困っている場合は、ケアマネジャーや訪問看護師等に相談できることも、患者さんや家族に伝えるようにしています。

⑤多職種連携について ~管理栄養士の立場から~(管理栄養士 大西 由夏先生)

 食べるという行為は、様々な要素から構成されています。食べるということは、①食べ物を見る②食べ物を認識する③手(道具)を使って口に運ぶ④咀嚼して食塊を形成する⑤食べ物を喉に送り込む⑥飲み込む(嚥下)というプロセスがあります。さらに⑦食材を買う⑧料理を作るという行為も考慮すると患者さんだけではなく、家族や介護者の生活環境全般を観察する必要があります。栄養(食に関する)問題の原因は、様々な要因で起こりえるということです。

 病院では、栄養に問題があると栄養サポートチーム(Nutrition Support Team、以下 NST ) で栄養管理を行います。NSTでは、栄養問題(低栄養や誤嚥性肺炎等)を、医師や看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科医師、歯科衛生士が、チームを組み連携しながら患者さんの栄養改善を図っています。在宅では、病院のような全ての職種がそろうことは少ないですが、栄養(食に関する)の問題の要因を見極め情報共有しながら専門職に繋げ、サポートしていく必要があります。

 食べること(食事)は、生きるための栄養補給と生活の質(QOL)の向上という大切な面を持つからこそ、在宅や地域でも患者さんや家族を中心とした多職種連携が必須となります。

⑥現在の制度の問題と今後の展望(副院長 齋藤 貴之先生)

 現状の課題として管理栄養士に関する医療や介護保険の報酬請求の仕組みが複雑という問題があります。現状では健康保険で訪問栄養指導を請求出来るのは管理栄養士を雇用する医科の医療機関だけで歯科医療機関は対象ではありません。

 また管理栄養士が活躍する場もまだ充分には整っていません。実際に管理栄養士を雇用している歯科医院への調査でも、主として栄養業務に携わっているのは半数以下です。歯科助手や受付の業務に携わる事が多いという現状が報告されています。

 長年、管理栄養士として活躍してきた方であっても在宅で訪問栄養指導を行うとなると仕事の内容が大きく変わってしまい、せっかくの専門知識を生かす事ができないケースが多くあります。しかし最近ではこのような現状を改善するために在宅管理栄養士としてのスキルアップをサポートする試みも各地でなされるようになってきました。

 また、今後は訪問栄養指導ができる管理栄養士を配置した栄養ケアステーションが各地に設置されていきます。

 このような事業が広がっていく事で地域における食支援の裾野が広がり、訪問管理栄養士と歯科医師が栄養指導を必要とする患者を協同で診療していく土壌が培われていくのではないでしょうか。

 冒頭で触れたように要介護高齢者は日々の暮らしを続けていく中で徐々に喉や舌の筋肉などの口腔機能が低下していきます。低栄養の問題と絡めながら今後も地域の中で口腔機能の大切さについて広めていきたいと思っています。

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